☆☆☆☆☆
−バットマンを現在に放り込んだクライムアクションサスペンス映画−
クリストファー・ノーランは《現代》の実在するニューヨークに、《過去》の創造物であるコミックヒーローを放り込んだ。
悪がもう単純に正義と棲み得ない時代、まさに今日の世界。
ジョーカーを『ノーカントリー』に出てくるアントン・シガーと同じように世界の悪の象徴として登場させる。
そこにはコミックの世界の風刺なんて存在しない。これが現代の世界だと言わんばかりに狂気が炸裂する。
バットマンは悪に挑むがルールの上に成り立った行動しかできないので《現代》の悪には翻弄されるばかり。
もう《現代》の悪は言葉では通用しない。
イライラしてたから刺した、だの、宗派が違うから殺す、だの、そういう説明できる悪意を超えたこの映画で描かれる悪意とは、世界中で起こっている狂気の集合を指す。
そんな不条理(ジョーカー)にルール(バットマン)は通用しない。
なぜならジョーカー自身が世界の悪意の塊から生まれた象徴なのだから。
ルールでどんなにその悪を潰そうとしても意味がない。そう、シンボルは消えないから。
そしてハービー・デントのキャラクターも非常に興味深い。
最も人間らしいこのキャラクターは善にも悪にも染まる。
所詮人間とはそんなに脆い生き物なんだ。直前の出来事であってもその出来事に感化される脆さを持ちえる。だからこそ善行も行える。
ハービー・デントが我々人間として、心の中の善意がバットマン、そして悪意がジョーカー、という図式が成立する。